『N』人物一覧&相関図解説|道尾秀介の“仕掛け”を一覧で整理

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「とりあえず最後まで読んだけど、あの場面ってなんの意味があったんだろう……」
「どことどことが繋がってるのかわかんなかったな……」「この作品めちゃくちゃ好きだった〜。次も似たような作品を読みたいけど、調べるのがめんどくさい……」

管理人は年間100冊以上小説・ビジネス書を読んでいるため、分かりにくい箇所を簡単にまとめて解説してみました。 最後にはジャンルの似ている本を紹介するので、気になる人はぜひチェックしてみてください!

あらすじ

引用:https://o-dan.net/ja/

全六章。読む順番で、世界が変わる。
あなた自身がつくる、720通りの物語。

道尾秀介の小説『N』は、6つの短編で構成されたミステリー作品です。
物語の登場人物は、魔法の鼻を持つ犬と秘密を追う理科教師、鳥の言葉の謎を追う高校生、少女殺害の真相を知る英語教師、恋人の遺体を隠した女性、奇跡を体験した看護師、ペット探偵を追う女性刑事──いずれもまったく異なる話のように見えます。

しかし読み進めるうちに、「あれ? この名前、さっきの話にも出てきたような……」「この事件、もしかしてつながってる?」と、点と点がつながり始めます。
それぞれの話に出てきた登場人物や出来事が少しずつ重なり合い、最終的には一つの大きな物語へと収束していきます。

物語は時系列順ではなく、どの順番で読むかは読者次第。
事件の“前”が“後”に描かれたり、何の関係もないと思った出来事が、実は同じ事件の別視点だったり──読む順番によって印象が大きく変わる構造になっています。

この記事では、そんな複雑に入り組んだ構成を「相関関係」「人物のつながり」に整理して、初読では気づきにくいポイントをできるだけわかりやすく解説していきます。

登場人物のリンク一覧

引用:https://o-dan.net/ja/

短編名主人公主人公の立場リンク先
名のない毒液と花吉岡利香理科教師。夫を事故でなくす。・「消えない硝子の星」→飯沼知真:アイルランドで終末医療の看護師をしている。

・「眠らない刑事と犬」「落ちない魔球と鳥」→江添正見:ペット探偵。

・「笑わない少女の死」→新間先生:元英語教師。一人で海外旅行に来ている。
落ちない魔球と鳥小湊普哉兄を亡くして(自殺)犯人を探している。・「飛べない雄蜂の嘘」→錦茂:自称カツオ漁師の空き巣。

・「名のない毒液と花」→吉岡利香:理科教師。旦那を事故でなくす。

・「笑わない少女の死」「名のない毒液と花」「消えない硝子の星」→新間先生:英語が苦手な英語教師。
笑わない少女の死新間先生元英語教師。一人で海外旅行に来ている。・「消えない硝子の星」→オリアナ:母親が終末医療患者の少女。10歳。ホリーの娘。

・「消えない硝子の星」→ホリー:終末医療患者。オリアナの母親

・「消えない硝子の星」→ステラ:ホリーの妹。オリアナの叔母。

・「消えない硝子の星」→飯沼知真:少女の母ホリーの看護師。
飛べない雄蜂の嘘作中では名前不明(チエ)恋人を殺してしまう昆虫学者。・「消えない硝子の星」→ホリー:終末医療患者。

・「落ちない魔球と鳥」→錦茂:カツオ漁師のおじさん。
消えない硝子の星飯沼知真アイルランドで終末医療の看護師をしている。・「飛べない雄蜂の嘘」→恋人を殺してしまう昆虫学者。

・「笑わない少女の死」→オリアナ:物乞いをしている小学高学年くらいの少女。

・「笑わない少女の死」→ステラ:少女を迎えに来る体格の良い女性。
眠らない刑事と犬小野田(女刑事)隣家で起きた殺人事件の犯人が自身の息子ではないかと疑っている女刑事。・「名のない毒液と花」「落ちない魔球と鳥」→江添正見:ペット探偵。

・「落ちない魔球と鳥」→錦茂:カツオ漁師のおじさん。

・「落ちない魔球と鳥」→小湊普哉:兄を亡くして(自殺)犯人を探している。

相関図

管理人が選ぶ激アツ場面別リンク

引用:https://o-dan.net/ja/

名のない毒液と花

リンク場面①

◾️リンク部分

→引用文P60

「飯沼はねぇ、一年生の三学期まで成績優秀だったんですよ」〜中略〜

「真鍋先生、チャンスがあったら、話しかけてみてくれませんかね」

◾️リンク先

→引用文P183「笑わない少女の死」より

教師という人間が信用されていなかったのだろうか。それとも、単に私が信用されていなかったのだろうか。ほかの教師の助けを借り、事態を良好な方向に導けたこともある。しかし多くの場合、私は何もできなかった。

◾️解説

新間先生が教師として「事態を良好な方向に導けたこともある」と言っているのは、「名のない毒液と花」の中学生の飯沼を利香に頼んだ時のこと

落ちない魔球と鳥

リンク場面①

◾️リンク部分

→引用文P101

「昨日、殺人事件があったろ?あっちのほれ、住宅地のほうで」ニシキモさんが太陽のほうを指さす。

◾️リンク先

→引用文P327「眠らない刑事と犬」より

この街で五十年ぶりに起きた殺人事件だという。

◾️解説

ニシキモさんが言っている「殺人事件」は、「眠らない刑事と犬」の女刑事が言っている「殺人事件」と同じ

リンク場面②

◾️リンク部分

→引用文P108

ニシキモさんの目がくるっと上を向き、僕の背後を見る。直後、首筋に風を感じたかと思うと、右肩に尖った何かが食い込んだ。「‥‥嘘だろおい」あの鳥が僕の肩にとまったのだ。

◾️リンク先

→P331「眠らない刑事と犬」より

海へつづく坂道のほうから、二人の人物が現れた。白い短髪の老人と、高校野球部のユニフォームを着た男の子。〜中略〜

やがて、驚くべきことが起きた。灰色の鳥がプラタナスの枝から飛び立ち、堀の外側に向かって急降下したかと思うと、高校生の肩にとまったのだ。「‥‥嘘だろおい」

◾️解説

→普也の肩にとまった鳥は、「眠らない刑事と犬」で江添が捕まえようとしていた鳥(チナミからの依頼)だった。

リンク場面③

◾️リンク部分

→引用文P150

雲の隙間から射し込む光のすじーーーニシキモさんが言う天使のはしごが、暗い海面をスポットライトのように照らしている。ぜんぶで五つ。それぞれの光は、丸く、小さく、等間隔で離ればなれになり、ちょうど五角形の頂点が光っているように見えた。〜中略〜「咲いた‥‥」ニシキモさんの声が震えている。

◾️リンク先A

→引用文P251「飛べない雄蜂の嘘」より

明るい光にきづき、目を上げる。雲の切れ間から薄明光線が伸びている。〜中略〜「花‥‥」わたしは息をのんだ。〜中略〜その花の中にわたしは、自分と同じように年老いた錦茂の姿を思い描いた。同じものを目のあたりにしている彼の姿を想像した。

◾️リンク先B

→引用文P257「消えない硝子の星」より

目を疑うような光景が、そこにあった。暗い海に、光の花が咲いている。巨大な円形の光が、水面に五つーーーそれらが寄り集まり、一つの大きな花となって白く輝いている。

◾️解説

→リンク先A:「飛べない雄蜂の嘘」の主人公であるチエ(作中では名前不明だが、「消えない硝子の星」で判明)を助けてくれた錦茂=ニシキモさんは同一人物で、約30年後の話。30年経ってもチエは錦茂を覚えていて、偶然同じ「光の花」を見ていた。

→リンク先B:アイルランドで看護師として働いていたカズマが日本に帰国する際に見た「光の花」も同じ光の花。つまり、「眠らない刑事と犬」「飛べない雄蜂の嘘」「消えない硝子の星」は同時期の物語。

笑わない少女の死

リンク場面①

◾️リンク部分

→引用文P186

少女の首には手製らしいネックレスがぶら下がっていた。革紐に細い針金が取り付けられ、その針金が、黄緑色のガラス片をしっかりと掴んでいる。

◾️リンク先

→引用文P265「消えない硝子の星」より

オリアナが二本の指でつまんでいるのは、まぎれもない、ウラン硝子のシーグラスだった。

◾️解説

定年後の新間先生がアイルランドで出会ったホームレス風の少女は、「消えない硝子の星」のオリアナ(母親を亡くした少女)と同一人物で、母親が亡くなった後の話。カズマと見つけたシーグラスをネックレスにして持っている。

飛べない雄蜂の嘘

リンク場面①

◾️リンク部分

→引用文P244

錦茂がくれた人生を、たぶん、わたしは無駄にしなかった。〜中略〜

かつての夢だった、世界の国々へのフィールドワークにも出かけた。ドイツ、イギリス、アイルランド、アメリカ、インド、中国。

◾️リンク先

→引用文P316「消えない硝子の星」より

「チエさんっていう、昆虫の研究をしている女性。四年前、レストランの二階を借りて、個展をやったときに、たまたま見にきてくれた人だった」

あなたの名前が入った蝶がいると、その日本人女性は教えてくれたのだという。

◾️解説

→「飛べない雄蜂の嘘」の主人公の名前は「チエ」で、ルリシジミ(Holy Blue)をホリー(オリアナの母親)に教えてくれていた。

リンク場面②

◾️リンク部分

→引用文P311

私が医療に従事することを決意したのは、中学三年生のとき、取り返しのつかないことをしてしまったからだ。私のせいで、一つの命がこの世から消えた。

◾️リンク先

→引用文P22「名のない毒液と花」より

精一は仔犬を追って走り、歩道の縁石を乗り越えた。右手から急接近する真っ白な光が、その姿を真昼のように浮かび上がらせた。〜中略〜

即死だったので苦しみはしなかっただろうと、後に聞いた。

◾️解説

→看護師をしているカズマ=「名のない毒液と花」のグレかけてる中学生。不良達への復讐計画が原因で、同じ中学の理科教師の夫である精一が事故死する。その一件が医療従事者を目指したきっかけ。

眠らない刑事と犬

リンク場面①

◾️リンク部分

→引用文P370

「あの犬、怪我しているの?」江添に追いついて聞いた。

歩くシルエットが不自然で、身体の右側に重い荷物でもくくりつけられているような様子だったのだ。

「ずっと昔、車に撥ね飛ばされた。後遺症ってやつだ。」

◾️リンク先

→引用文P23「名のない毒液と花」より

江添はパイプチェアを高々と持ち上げると、大声を投げて横した。〜中略〜

私たちが合図を返すより早く、子犬が反応した。〜中略〜

右手から急接近する真っ白な光が、その姿を真昼のように浮かび上がらせた。

◾️解説

→精一が亡くなった事故の原因は、当時まだ仔犬だった吉岡(人間の吉岡精一が事故で亡くなったため、まだ名前を持っていなかった仔犬が名前を引き継いだ)が道路に飛び出し、それを助けようとしたため。結果として、精一はなくなり、仔犬は後遺症が残る怪我をした。

『N』が好きだった人におすすめの小説3選

引用:https://o-dan.net/ja/

『クリムゾンの迷宮』:貴志祐介

→ 記憶を失った主人公が、生死をかけたゲームに巻き込まれる。現実と虚構が曖昧になる構成や、徐々に明かされる真相は、『N』のように“読み進めるほど視界がひらける感覚”が味わえます。
閉ざされた世界で何を信じるか、誰と行動するかという選択が物語の展開を左右し、読者自身の価値観や想像力を強く刺激します。ゲーム的でありながらも心理戦が中心で、ハラハラと没入感のある一冊です。

『少女』:湊かなえ

→ 「死」に対する好奇心を持つ二人の少女が、交互の視点で語っていく。視点のズレによる“物語の反転”が巧妙で、『N』の多視点構成とよく似た読後感を味わえます。読者はどちらの語り手を信じるか試される構造で、読後に再度読み返したくなる巧妙な仕掛けが満載。心理的な距離や共犯意識、語られなかった部分の補完を自然と行わせる手法が、道尾作品のアプローチと共通しています。

『噛みあわない会話と、ある過去について』:辻村深月

→ 会話劇と回想を軸に、過去の出来事が少しずつ明らかになる構成。言葉の裏に隠れた本音がつながった瞬間の驚きは、『N』同様“読者に組み立てさせる物語”として秀逸です。すれ違う会話や温度差が、物語の核心にじわじわと近づいていく緻密な構成。読み進めるうちに何気ない一言が重みを帯びてくる感覚は、語りのトリックや登場人物の変化を通じて真相にたどり着く『N』に通じるものがあります。

最後に

『N』は、ただの短編集ではありません。
バラバラに見える6つの物語が、視点や時間軸をずらして描かれることで、読者自身に「つながり」を見つけさせる構造になっています。

登場人物や出来事は、別の話にもこっそり登場し、何気ない一文が別の物語の伏線になっている──そんな仕掛けが随所にちりばめられています。

この作品の面白さは、「誰が」「何を」「いつ」語っているのかを自分で整理しながら読んでいく過程そのものにあります。
つまり『N』は、読む順番や解釈によって物語の形が変わる、“読者参加型の小説”とも言えるのです。

一度読んで終わりではなく、ぜひもう一度読み返してみてください。
視点やつながりに注目するだけで、まったく違う物語が見えてきます。

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