凍えるような冬の夜だった。古いアパートに一人で帰宅し、吐く息の白さにうんざりしながら、押し入れから「コタツ」を出した。まだ電源コードはつないでいない。それでも、冷え切った手足を温める避難所があるだけで、少しだけ気分がマシになる。分厚い布団に足を滑り込ませた。
その瞬間、奇妙な違和感に襲われた。電源を入れていないはずなのに、足元がやけに「あったかい」。機械的な熱さではなく、まるで湯たんぽが入っているかのような、じっとりとした生温かさだ。そして、足の甲に何かが触れた。ヌルリ、とした感触。靴下が、何か水分を吸って「湿っている」のが分かった。
「え?」 思わず声を上げ、足を引いた。こんな季節に、コタツの中が湿る理由がない。まさか、ネズミか何か……? 意を決して、スマートフォンで足元を照らしながら、恐る恐る布団の端をつまみ上げた。そして、勢いよくそれを剥ぎ取った。
コタツの中には、何もなかった。 いや、違う。何も「いなかった」。 さっきまで足が触れていた場所。そこだけが、畳が黒く変色するほど、人型のようにじっとりと「湿っていた」。そして、その湿った布団の裏側には、無数の黒く長い髪の毛が、まるでしがみつくように張り付いていたのだ。あの生温かさは、まだそこに「いた」。


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