私には、毎日自転車で通勤する変わった同僚がいた。私たちは親友で、よく二人で他人の噂話をして盛り上がっていた。しかし、私が婚約した途端、彼女の態度はよそよそしくなった。「最近、付き合い悪いね」と笑うその目が、少し怖かった。
その直後、婚約は突然の破談となった。彼が青ざめた顔で私に突き出したのは、何通もの手紙だった。『あいつは男を乗り換えるのが趣味だ』『昔の男の悪口を笑いながら話していた』…そこには、私が彼女にしか話していない、過去の愚痴や秘密が、悪意に満ちた筆跡でびっしりと書かれていた。
私は会社で彼女を問い詰めた。「あなたが書いたんでしょう!」 彼女はきょとんとした顔で首を傾げた。「何のこと? 証拠でもあるの?」。そして、いつもの笑顔でこう言った。「それより、今日は久しぶりに二人で帰らない? 私の自転車、後ろに乗っていきなよ」 その笑顔が、婚約者の手紙を読んでいた時の、あの冷たい目と同じだと気づき、私は恐怖で逃げ出そうとした。
だが、彼女に腕を掴まれた。細い腕のどこにこんな力が、と思うほどの握力。「どうして逃げるの? あんな男のために、私を捨てるの?」。彼女は泣きそうな顔で、しかし口元は笑っている。 彼女は私を自転車の荷台に無理やり座らせると、ポケットから取り出したワイヤーロックで、私の手首と荷台のフレームを手際よく縛り付けた。 「やめて! 離して!」 私は必死にもがくが、固く縛られ動けない。 「大丈夫。いつもの帰り道だよ」。彼女はサドルにまたがり、楽しそうに鼻歌を歌いながらペダルを漕ぎ出した。暗い夜道、どこに連れて行かれるのかも分からぬまま、私は狂った親友の後ろで絶望に叫ぶしかなかった。
      
      
      
      
  
  
  
  

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