ゾッとする話:咀嚼音

AI小話

3歳になる息子には、最近困った癖があった。何でも口に入れて噛んでしまうのだ。「昨日」も、妻が大切にしていた木製の写真立てをガリガリと噛んでしまい、ひどく叱られていた。好奇心旺盛な「こども」だから仕方ない、と私は苦笑いしていた。

朝、リビングのテーブルを見ると、その硬い天板の縁に、奇妙な「歯形」が残っていた。小さく、間違いなく息子のものと一致する。だが、まるで柔らかい粘土でも噛んだかのように、木材がくっきりと抉れている。 「おい、こんな硬いところを噛んだら歯が欠けるぞ」 息子は、キョトンとした顔で私を見上げるだけだった。

その夜、キッチンで物音がした。見に行くと、息子が冷蔵庫の取っ手にしがみついていた。金属製の、硬いはずの取っ手が、ぐにゃりと歪み、生々しい「歯形」が刻まれている。 「お前、何を……」 背筋が凍った。人間の「こども」の顎の力ではない。息子はゆっくりとこちらを振り返り、無表情のまま、口から銀色の金属片をカラン、と吐き出した。

私は「昨日」、息子が叱られた理由を思い出した。妻は「写真立てを噛んだ」と言っていた。だが、今ならわかる。息子が噛んでいたのは、写真立ての木枠ではない。その中にあった、妻と私の写真。その「顔」の部分を、執拗に、執拗に、噛み砕こうとしていたのだ。息子は、今も私の足元で、床に落ちた金属片を美味しそうに舐めている。

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