学校の屋上は、生徒の間で密かな自殺の名所と噂されていた。フェンスが異様に高く改修されたのも、昨年に一人の女子生徒が飛び降りたからだと言われている。俺はそんな噂を鼻で笑いながら、昼休みの静寂を求めて屋上へと続く階段を上った。
重い鉄扉を開けると、先客がいた。クラスで大人しい性格の佐藤だ。彼はフェンスのギリギリに立ち、身を乗り出すようにして下を覗き込んでいた。「おい、危ないぞ」と声をかけると、彼はゆっくりと振り返った。その顔はやけに青白く、どこか焦点が合っていない。佐藤は「ねえ、あそこを見て」と、校庭の隅を指差した。
彼が指差した先には、一年前の事故の現場とされる場所に、古ぼけた花束がポツンと置かれていた。それだけではない。花束のすぐ横に、一人の女子生徒が立ってこちらを見上げているのが見えた。佐藤は呟いた。「彼女、ずっと待ってるんだ。あの日、一緒に飛び降りようって約束した相手を」俺は背筋が凍るのを感じた。佐藤はあの事故の目撃者だったはずだ。
「でも、もう大丈夫だよ。やっと見つけたから」佐藤が不敵に微笑んだ。その瞬間、俺は違和感に気づいた。正午近い直射日光の下、佐藤の足元には「影」がなかった。 驚いて一歩下がった俺の足首を、フェンスの外側から伸びてきた「誰かの手」が強く掴んだ。 「あの日、突き落としたのは君だったよね」 佐藤の姿が陽炎のように消える。視界が反転し、俺の体は高いフェンスをすり抜けて、真っ逆さまに宙へ放り出された。


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