ゾッとする話:火の用心

AI小話

深夜、新居のマンションの外から「カチ、カチ」と拍子木の音が聞こえてきた。「火の用心、マッチ一本、火事の元」という夜回りの声が続く。最近、この界隈では不審火が相次いでいると隣人が話していた。僕はその警告に感謝しつつ、安心感とともに眠りにつこうとした。

しかし、その声は何度も部屋の真下で繰り返される。違和感を覚えて窓から下を覗くと、提灯を掲げた十数人の男たちが「行列」を作って立ち止まっていた。彼らは一歩も動かず、僕の部屋を見上げながら、代わる代わる拍子木を鳴らしている。その足元には、数えきれないほどのポリタンクが並んでいた。

異臭に気づいた。玄関の方から、鼻を突くガソリンの臭いが漂ってくる。慌てて逃げようとドアへ向かったが、取っ手がびくともしない。外側から何重にもチェーンやボルトで固定されているような、重苦しい手応え。さらに、ドアの隙間からは、まるで意志を持っているかのようにガソリンが部屋の中へ浸食し始めていた。

窓の外で、一人が懐からマッチを取り出し、火を灯した。その瞬間、男たちの無表情な顔が赤く照らされる。行列の最後尾に並んでいたのは、昨日「不審火に気をつけて」と僕に忠告してきたあの隣人だった。 「……火の用心。不純なモノ、焼き払え」

彼が火を放つと同時に、一筋の炎が導火線のように玄関の隙間へと吸い込まれていく。

カチ、カチ。 拍子木の音とともに、階下で一斉に合唱が始まった。 「マッチ一本、『生贄』の元」

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