実家に帰省した夜、広大な田んぼの真ん中に、ポツンと動く「光」が見えた。父に尋ねると「夜中の見回りは農家の基本だ」と言うが、その横顔はひどく青ざめ、手が小刻みに震えていた。
翌晩、光の数は五つに増えていた。畦道を等間隔に並んで、ゆらゆらと進んでいく。三日目の夜、好奇心に勝てず、僕は自室の懐中電灯を窓の外の光に向けて点滅させてみた。すると、田んぼの中を動いていた複数の光が一斉に止まった。そして、それらは一列になり、僕の家に向かって真っ直ぐに動き出した。
慌ててカーテンを閉めようとした瞬間、窓ガラスのすぐ向こうに「それ」がいた。 それは化け物ではない。泥まみれの作業着を着た村の男が、古びた角形の灯籠を高く掲げて立っていたのだ。 和紙越しに漏れる、ゆらゆらとした蝋燭(ろうそく)の火が、男の感情を失った瞳を不気味に浮かび上がらせていた。
絶望的な沈黙の中、階下から父の枯れたような声が聞こえた。 「……お前も合図を送ったか。去年の収穫祭、余所者の『足』を折って田んぼに立てる役を……お前に継がせるのを忘れていたよ」
フッ、フッ……。庭のあちこちで、灯籠の火を吹き消す音がした。完全な暗闇の中、僕の部屋の窓を外から叩く、硬い「木枠」の音が響き渡った。

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