アパートの「インターホン」が鳴った。時刻は深夜2時。こんな時間に誰だ。恐る恐る「モニター」を覗き込むと、そこには誰も映っていなかった。
「誰もいない」じゃないか。イタズラか。そう思ってベッドに戻ろうとした時、再びインターホンが鳴った。 ピンポーン。 慌ててモニターを見る。やはり誰も映っていない。ただ、ノイズまじりのスピーカーから、か細い声が聞こえた。 「……開けて……」
全身の血の気が引いた。モニターには「誰もいない」のに、声だけがする。 「……お願い、開けて……寒い……」 震える手で、受話無言のまま通話ボタンを切った。もう鳴らないでくれ。 しかし、インターホンは三度鳴った。
もうモニターを見る勇気はなかった。だが、その時、気づいてしまった。 インターホンが鳴るたび、「モニター」に映る玄関前の廊下。その床に落ちる「影」が、ほんのわずかずつ、濃く、長くなっていることに。 そいつは、カメラの「死角」に立って、俺がモニターを覗き込むたびに、ゆっくりと、こちらに「お辞儀」をしていたのだ。

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