私の娘・ヒナは小学生だが、最近困った「癖」が始まった。 私の口紅、夫のライター。最初は家の中の小さなものだった。私たちが叱っても、ヒナは「知らない」と首を振るばかりだった。
だが、その「癖」はエスカレートしていった。 クラスメイトの筆箱、近所の家の鍵、スーパーの棚の缶詰。見つけて問い詰めても、ヒナは泣きながら「ヒナじゃないの」と繰り返す。 「じゃあ誰なの!」 「…“手の長い”お友達が…」 私たちは、娘が嘘をつくために、都合のいい空想の友達を作り上げたのだと思った。
その日の夕方。私が買い物から帰ると、家の中が荒らされていた。 金目のものばかりじゃない。食器、本、リモコン、あらゆる「物」が、ヒナの部屋に向かって点々と落ちている。 私は血の気が引き、ヒナの部屋のドアを開けた。 ヒナは、部屋の真ん中にいた。 部屋は、近所中の家からかき集めてきたような、ガラクタの山で埋め尽くされていた。
「ヒナ…?」 ヒナはゆっくりと振り向いた。 「…“お友達”が、止めてくれないの」 彼女が着ていたのは、ブカブカの長い袖のトレーナーだった。 その袖が、私の目の前で、ありえないほど長く伸びた。 それは服の袖ではなかった。 ヒナの肩から生えた「それ」は、 蒼白く、節くれだった「腕」そのものだった。 「それ」は、壁を伝い、天井を這い、ガラクタの山を愛おしそうに撫でていた。 私はその場に座り込むことしかできなかった。


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