ゾッとする話:隙間の瞳

AI小話

一人暮らしを始めた安アパートには、備え付けの古びた姿見があった。アンティーク調と言えなくもないが、俺はどうにもそれが苦手だった。特に、鏡面の縁と木枠の間に空いた、カード一枚分ほどの黒い「隙間」が気になった。まるで、そこだけが別の空間に繋がっているような、不吉な「鏡」だった。

ある夜、歯を磨きながら鏡を覗き込むと、奇妙な違和感を覚えた。鏡の中の自分の「瞳」が、一瞬だけ、俺の動きとは無関係に、ギョロリと動いた気がしたのだ。 (疲れているのか…) だがその日から、鏡に映る自分は、常に俺を「見つめる」ようになった。俺が顔を洗っていても、髪を乾かしていても、鏡の中の「俺」だけは、じっと、値踏みするように俺の「瞳」を見つめ返してくる。

恐怖が日常を侵食し始めた頃、俺はあの「隙間」に全ての原因があるのではないかと直感した。意を決してスマートフォンのライトを点け、恐る恐るその黒い裂け目を覗き込んだ。 そこは暗闇ではなかった。 隙間の奥には、数え切れないほどの「瞳」が密集していた。充血し、狂気に満ちた無数の瞳が、一斉に俺のライトの光を捉え、ギラリと反射した。

「あ…」と声にならない叫びが漏れた瞬間、鏡の中の「俺」がニヤリと笑った。 「見つけた」 そして、「俺」は鏡面から手を伸ばし、現実の俺の腕を掴んだ。その手は、あの「隙間」から這い出てきた、無数の眼球が絡み合ってできた「腕」だった。鏡の中から引きずり込まれながら、俺はアパートの契約書にあった特約事項を思い出していた。 『備品(姿見)の破損・紛失時は、同等の「代用品」をもって弁済すること』 俺が、次の「代用品」だった。

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