俺の母親は、少し潔癖症だ。特にゴミ出しには厳しく、分別はもちろん「収集日の朝に出すこと」を徹底していた。だが最近、どうも様子がおかしい。夜中にゴソゴソと何かを捨てているようなのだ。
ある晩、俺はこっそり母の後をつけた。母はアパートの共用ゴミ箱ではなく、なぜかアパートの裏手、古い焼却炉の前に立っていた。そして、小さな黒いゴミ袋を、その使われていないはずの焼却炉に押し込んだ。母が部屋に戻った後、俺は恐る恐るその焼却炉を覗いたが、暗くて何も見えなかった。
翌日、アパートの掲示板に張り紙が出た。『最近、不審なゴミの捨て方をする方がいます。必ずゴミ箱へ』。それを見た隣人の奥さんが、俺にこう囁いた。「あなたのお母さん、毎晩あそこに何か捨ててるわよ。まるで…赤ん坊のオムツみたいな重さの袋をね」。その言葉に、俺は数年前にこのアパートであった、赤ん坊の置き去り事件を思い出し、背筋が凍った。
その夜、俺は母を問い詰めた。「母さん、毎晩何を捨ててるんだよ!」 母は真っ青な顔で震え、ゆっくりと俺の部屋のクローゼットを指差した。 「…あの子が、また帰ってくるのよ」 ギィ…とクローゼットの扉が軋む。隙間から、腐臭に混じって赤ん坊の泣き声のようなものが聞こえた。母が焼却炉に捨てていたのは、あの事件で死んだ赤ん坊が毎晩「置いていく」オムツだったのだ。そして今夜は、回収日(母が捨てる日)ではなかったらしい。

 
       
       
       
       
  
  
  
  
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