お話
「放課後」のチャイムが遠くで鳴り、校舎は急速に静まり返った。担任の私は、一年生の陽菜ちゃんがまだ帰宅していないという連絡を受け、母親と共に必死に校内を捜索していた。陽菜ちゃんはクラスで一番「小柄」で、いつも大きなランドセルを背負いながら、一人で真っ先に帰るような静かな子だった。
「先生、あそこに!」 校舎の裏側、人目につかない資材置き場の隅で、母親が叫んだ。そこには、陽菜ちゃんの真っ赤な「ランドセル」がポツンと置かれていた。母親は「陽菜!そこにいるのね!」と叫びながら駆け寄った。ランドセルがあるということは、まだ敷地内にいる。母親は震える手でそれを持ち上げ、「よかった、これがあればすぐに見つかるはずです」と私に縋りついた。
私は母親を励まそうとしたが、ある強烈な「違和感」に言葉を失った。 今日の午後の授業は、学期末の「大掃除」だった。 私は子供たち全員に、教科書や筆箱はすべて教室の「個人ロッカー」に保管させ、ランドセルを「完全に空の状態」にしてから、最後にゴミ捨てを手伝わせたのだ。 実際、教室に残された陽菜ちゃんのロッカーには、教科書や筆箱がしっかり残っているのを私は先ほど確認している。
それなのに、母親が今まさに「中にまだ教科書があるのかしら」と揺すったそのランドセルは、ずっしりと重く、パンパンに膨れ上がっている。 さらに、持ち上げた衝撃で、中から「ゴトッ……」という、紙の束がぶつかる音とは違う、湿り気を帯びた鈍い音が響いた。 私は、先ほど母親が言った言葉を思い出し、全身の血が凍りついた。 「あの子、今日はお気に入りのピンクのリボンで、ツインテールにしてあげたんです。だから、目立つのに……」 夕闇の中、ランドセルのジッパーの隙間から、その「ピンクのリボン」が、不自然な角度で絡まった「黒い髪の束」と共に、じわじわとはみ出してきた。 母親は、まだ娘がどこかの物陰に隠れていると信じ、その「重み」を抱えたまま、必死に娘の名前を呼び続けていた。
解説
真相は、陽菜ちゃんは何者かに殺害され、遺体の「頭部」がランドセルの中に詰められていたというものです。 仕込まれた違和感は、大掃除の決まりで「ロッカーに中身がある=ランドセルは空のはず」なのに、なぜか「ランドセルがずっしりと重く膨らんでいる」という点です。空のランドセルが重いということは、放課後のわずかな間に、教科書以外の重い何かが詰められたことを示しています。陽菜ちゃんがクラスで一番小柄だったという描写は、犯人がランドセルという限られたスペースに遺体(あるいはその一部)を収めようとした動機や可能性を裏付けています。「はみ出した髪の束」は、ランドセルの中身が、リボンで結ばれたままの彼女の頭部であることを示唆しています。

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