お話
一人暮らしを始めてから、この古い中古のテレビには少し困っていた。毎日、決まって夜11時になると、勝手につくのだ。 チャンネルはいつも同じ。地元のローカル局がやっている「おやすみ前の天気予報」。
最初は少し気味が悪かったが、慣れてくると便利に思えてきた。「あ、もうこんな時間か」と寝る準備の目安になるし、天気予報を確認してから眠れるのは「親切」な機能だとさえ思っていた。 (前の持ち主がオンタイマーを設定したままなんだろうな。まあ、いっか) 私はそう結論づけて、特に設定をいじることもしなかった。
ある週末、彼氏が泊まりに来た。夜11時。私が「あ、そろそろつくよ」と言った瞬間、パッとテレビがついた。いつもの天気予報だ。 「へえ、すごい。オンタイマーだけじゃなくて、チャンネルまで固定なんだ。古いのに高機能だね」 彼氏は感心しながらリモコンを手に取った。 「ちょっと設定見てみるよ。…あれ?」 彼氏がリモコンを操作しながら、怪訝な顔をする。 「どうしたの?」 「いや…このテレビ、タイマー設定の項目自体が『オフ』になってる」 「え? じゃあなんでつくの? 接触不良?」 「かもな。あ、天気予報終わった」 彼氏はそう言うと、リモコンで別のチャンネル(深夜のバラエティ番組)に変えた。私たちはそのままダラダラとそれを見て、夜中の1時頃、彼氏がリモコンで電源を切って寝た。
翌朝、彼氏は帰っていった。 その夜。私は風呂から上がり、髪を乾かしていた。時計は10時59分。 (そういえば、昨夜は彼氏がチャンネル変えたままだったな) (11時になったら、昨日のバラエティ番組がつくのかな? それとも、さすがにつかないか) ボン、と壁の時計が11時を指した。
「こんばんは。おやすみ前の天気予報です」
(……え?)
私は、ドライヤーを持ったまま凍りついた。 テレビは、いつものローカル局の天気予報を映し出していた。
(なんで…?) (タイマーは「オフ」だったはずじゃ…)
(それに…) (昨夜、彼氏が確かにチャンネルを変えて、リモコンで電源を切ったのに) (どうやって「時間通り」について、どうやって「チャンネル」を天気予報に“戻した”の…?)
解説
このテレビは、故障やタイマーの誤作動でついていたのではない。 主人公の家の外(隣室、あるいはアパートの廊下や向かいの建物など、赤外線が届く範囲)から、第三者が「学習リモコン」や「スマートリモコン」を使って、意図的に操作していたのだ。
犯人(ストーカー)は、主人公が毎日その時間に在宅しているかを確認するために、テレビをつけていた。 「天気予報」という無害な番組を選ぶことで、主人公に「便利なタイマー機能(親切)」だと思い込ませ、警戒心を解いていた。


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