「とりあえず最後まで読んだけど、あの場面ってなんの意味があったんだろう……」 「この作品めちゃくちゃ好きだった〜。次も似たような作品を読みたいけど、調べるのがめんどくさい……」
読書好きにはよくある悩みだと思いますが、この記事を読むと
①作中で出てくる伏線を理解する
②『ザリガニの鳴くところ』の狂気名場面を振り返る
③この作品が面白かった人におすすめの本を知る ことができます。
管理人は年間100冊以上小説・ビジネス書を読んでいるため、分かりにくい箇所を簡単にまとめて解説してみました。 最後にはジャンルの似ている本を紹介するので、気になる人はぜひチェックしてみてください!
あらすじ

ノースカロライナ州の湿地に生まれ育った少女・カイア。家族は次々に彼女のもとを去り、6歳にしてほぼひとりで生きることを強いられます。学校にも通わず、自然と動物を師とし、湿地での生活を自ら切り開いていきます。
そんな彼女の人生に関わる二人の男性。
彼女に読み書きを教えたテイト、そして後に事件の被害者となる青年・チェイス。物語は、チェイスの死をめぐるミステリーと、カイアの成長を描くヒューマンドラマが交錯しながら進行します。
美しい自然描写と静かな筆致のなかに、じわじわと漂う違和感。
そして、最後に明かされる衝撃の真実。読み終わったあと、ページをめくり返したくなること間違いなしです。
※以下、ネタバレしかないです!読後に読むことをおすすめします!
伏線と回収

伏線①:チェイスが持っていた貝殻のネックレス
→引用文
「彼の遺体には、いつも首にかけていたはずの貝殻のネックレスがなかった」
この一文、さらっと書かれているだけですが、実はとんでもなく重要な伏線です。
チェイスがいつも身につけていたネックレスは、カイアが渡したものであり、愛の証とも言えるものでした。それが遺体から消えていたことは、彼の死にカイアが関わっていたことの間接的証拠になります。
そして物語ラスト、カイアが亡くなったあと、彼女の隠し場所からそのネックレスが見つかる。
これにより、読者は初めて“真犯人”がカイアだったことを知ります。
静かな怒りと冷静な犯行。あの少女が、殺意と愛情を両立させていたという狂気が、じわりと浮かび上がります。
伏線②:「ザリガニが鳴くところ」とは?
→引用文
「ザリガニの鳴くところまで行け、と母は言った。そこには誰もいないから」
タイトルにもなっているこの一文。
比喩的な表現ですが、意味は非常に示唆的です。ザリガニは実際には鳴きません。
「誰もいない」「誰にも見つからない」場所の象徴としての言葉です。
母から受け継がれたこの言葉は、カイアにとって“社会から隔絶された世界”への入口でもありました。つまり、彼女は常に人間社会の外側で生きていました。
そして、チェイスの死もまた、この”誰にも見られない場所”で起こりました。
自然のなかに隠された狂気。湿地の静けさは、ただの背景ではなく、カイアの心の中を映し出す鏡でもあるのです。
伏線③:動物の捕食や擬態についての描写
→引用文
「捕食者は、静かに近づく。そして逃げられない距離で一気に襲う」
カイアは幼い頃から自然とともに生き、動物たちの生態を観察し続けてきました。
彼女の人生哲学の多くが、動物行動学から形作られているとも言えます。
特に、弱い存在が生き延びるための”擬態”や、敵を欺く行動には強く共感していた様子が見受けられます。
チェイスを殺害した際、カイアはアリバイを用意し、町を離れたふりをしていました。
まさに”擬態”そのものです。捕食者としての冷静さと、弱者としての偽装。
彼女が自然から学んだ戦術が、人間社会においても完璧に機能したということです。
この描写が物語全体において“殺人が彼女にとって自然な選択肢だった”と暗に語っているように感じられるのが、なんとも背筋が寒くなるポイントです。
伏線④:詩人“アマンダ・ハミルトン”の詩の引用
→引用文
「夜が静かに過ぎ、殺意はやがて羽ばたいた」
物語中盤から何度も登場する詩人アマンダ・ハミルトン。
作品内では彼女の詩がカイアの心情や物語の進行とリンクするように挿入されていました。
ラストで読者が知る事実。
それはアマンダ・ハミルトンとはカイア自身のペンネームだった、ということです。
つまり、詩の内容は彼女の告白でもあり、内面の吐露でもあったわけです。
特にチェイスの死を暗示する詩の数々は、再読すると「これ、全部言ってたじゃん……」と震えるレベル。
詩というフィクションに仮託して、カイアは自らの罪を語り続けていた。それを“芸術”として読んでいた私たち読者も、彼女の擬態にまんまと騙されていたのです。
管理人が選ぶ狂気名場面トップ3

トップ3:父親から逃げ、1人でボートを漕ぐ幼き日のカイア
→ まだ幼いカイアが、父親の暴力を避けてボートで湿地に逃げる場面。誰にも頼れず、言葉も社会性も失った少女が、生き延びるために自然の中で孤独を選ぶというシーンには、胸が締め付けられます。 このときすでに、彼女は“人間の社会”ではなく“動物の世界”に身を委ねていたのでしょうね。
トップ2:法廷での沈黙
→ カイアが殺人容疑で裁かれる中、法廷では終始圧倒的に不利な立場に立たされます。しかしカイアは、憔悴していく描写はあるものの、静かに湿地にいるときのような無言を貫きます。犯人はカイアだったのですが、確かに彼女は無罪を主張することもなければ、「殺していない」「犯人ではない」と一言も言っていません。沈黙も計算の内だったのかと考えるとゾワっとしますね。
トップ1:最後の詩とネックレスの回収
→ 物語ラスト、テイトがカイアの死後に彼女の隠し部屋を見つけます。
そこには自然についてのスケッチブックや、チェイス殺害を示唆する詩、そして失われていた貝殻のネックレスが保管されています。 この場面でやっと読者は「彼女が犯人だ」と悟ることができます。 愛するテイトと一緒に湿地で過ごし歳を重ねていく描写で、「チェイスは事故だったんだ〜。カイアが幸せな人生を過ごせて良かった!」と思っていたところで急にチェイス殺人の証拠が出てきて焦りますよね!
愛するテイトにさえ隠し通したカイアの覚悟と生き抜く強さを感じました!
『ザリガニの鳴くところ』が面白かった方におすすめの本3選

その女アレックス:ピエール・ルメートル/橘明美訳
→誘拐された女性アレックス。監禁され、拷問されながらも彼女は生き延びます。だが、この物語はそこでは終わりません。警察の捜査が進むにつれ、アレックスの過去が次々と暴かれ、読者の視点は何度もひっくり返されます。残酷で、そして鮮烈なサスペンス。被害者と加害者、善と悪の境界があいまいになっていく構成に、読後は茫然と立ち尽くすことになる一冊です。気持ちよく騙されたい方におすすめです!
隣の家の少女:ジャック・ケッチャム
→1950年代のアメリカ郊外。少年の視点で描かれる、隣家で繰り広げられる残酷な「教育」と称した虐待。恐ろしく、そして読む者に倫理観を突きつける一冊です。人間の狂気と暴力性がこれほどリアルに描かれた作品はないでしょう。読者自身の無力さや傍観者であることの罪をも突きつける、まさに“読まされる”体験。精神的打撃は計り知れないが、それでも読む価値がある問題作。グロテスクな描写も多いので、苦手な方は避けた方が良いです!
ファントム:スーザン・ケイ
→『オペラ座の怪人』を原案にした、怪人エリックの生涯を描く壮大な物語。孤独・拒絶・愛を求め続けた男の心の深淵を丹念に描ききった傑作です。怪物ではなく、一人の人間としての“怪人”の視点が、狂気と美をあぶり出す。壮絶な人生の旅路と、彼を取り巻く人々の視線が交錯する中で、読者は次第に“怪物とは誰か”という問いに向き合わされます。重く美しい読書体験を約束する一冊です。
最後に

美しい自然の描写に包まれた静かな物語の裏に、漂う狂気。読後の読者にじわじわ効いてくる、『ザリガニの鳴くところ』はそんな一冊です。
緻密に張り巡らされた伏線、自然と人間社会の対比、そして少女が抱えた孤独と愛の形。すべてがラストで一気に結晶化し、深い余韻を残します。
気になる方は、もう一度読み直して、伏線を確かめてみてはいかがでしょうか?
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