引っ越したばかりのこのアパートは安いだけあって古く、特に寝室の天井には四隅に大きな黒いシミがあった。不動産屋は「ただの雨漏り跡ですよ」と言っていた。だが、どうも気味が悪い。特に深夜、ベッドに入ってそれを見上げていると、圧迫感を感じるのだ。
ある晩、薄暗い豆電球の中、俺は金縛りにあった。体が動かない。そして、天井の四隅のシミが、ゆっくりと形を変え始めた。シミはまるで、黒いインクが滲み出すように広がり、中央に向かって集まってくる。それはやがて、小さな子どものような人型を形成した。
それは、四つん這いになった子どもの影だった。天井に張り付き、こちらを見下ろしている。金縛りの中、俺は必死に目を閉じようとした。だが、できなかった。その影は、まるで重力に逆らうように天井を這い回り、ギシ、ギシ、ときしむ音を立てる。そして、俺のベッドの真上で、ピタリと動きを止めた。
恐る恐る目を開けると、俺はそれと目があった。 影だと思っていたそれは、真っ黒な瞳で俺を凝視していた。そして、その口がゆっくりと開く。 「…やっと、みつけた」 その声と同時に、俺は強烈な腐臭を感じた。このアパートで以前、一家心中があったという噂を思い出す。あの天井の四隅のシミは、雨漏りなどではなかった。この部屋で死んだ子どもが、次の住人を見つけるまで、毎晩四隅に隠れて待っていたのだ。
      
      
      
      
  
  
  
  

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