お話
妻を亡くして二年。俺は、新しいパートナーの「アスカ」と、娘の「ハナ」との三人で、新しい生活を始めていた。アスカは本当に優しい女性で、心を閉ざしがちだったハナにも、献身的に接してくれた。
「ハナちゃん、こっち向いてー!」 アスカは写真を撮るのが趣味だった。天気の良い休日、庭の古い木製の椅子にハナを座らせ、写真を撮っている。 「そう、いい笑顔! 可愛い!」 アスカが笑うと、ハナも、ぎこちないながら笑顔を返す。その光景が、俺の新しい幸せの象徴だった。
その夜。アスカが撮った写真を、リビングのPCで見ていた。 どれも、ハナが楽しそうに笑っている、素晴らしい写真だ。 「この一枚、最高じゃないか」 俺は、ハナが庭の椅子で笑っているベストショットを拡大した。
…ん? 俺は、その写真に、強烈な違和感を覚えた。 ハナの笑顔が、どこか不自然なのだ。口は笑っているのに、目が、まるで何かに怯えているように、固くこわばっている。
俺は、ハナの目の部分を、さらに拡大した。 (なんだ、これ…) ハナの瞳が、真昼の屋外だというのに、ありえないほど大きく、真っ黒に見開かれていた。 まるで、暗闇で何か恐ろしいものを見た時のように。
「パパ…?」 不意に、背後からハナの声がした。 振り向くと、ハナが、俺が今見ているPCの画面を、青ざめた顔で凝視していた。 「…ちゃんと、笑えてなかった…?」 ハナは、ガタガタと震えながら、そう呟いた。 「ごめんなさい…ごめんなさい…明日、アスカお母さんともう一回、練習するから…」
俺は、ハナが何を言っているのか、理解できなかった。 「練習」…? 一体、なんの…?
解説
一見、新しい母親と娘が、ぎこちないながらも幸せな家族になろうとしている日常の風景。 しかし、違和感は「明るい屋外なのに、異常に散大している娘の瞳孔(恐怖のサイン)」と「娘の“ちゃんと笑えてなかった?”“練習するから”という謎の謝罪」。 真相は、アスカは「優しい母親」などではなかった。彼女は、夫(主人公)がいないところで、娘のハナに「完璧な笑顔」を強要し、日常的に虐待(あるいは恐怖による調教)を行っていた。 ハナの「ぎこちない笑顔」は、恐怖の中で必死に作らされた表情だった。 主人公は、娘が何を「練習」させられているのか、その恐ろしい真実に気づいてしまった。
      
      
      
      
  
  
  
  

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