「深夜」に車が故障し、最悪の場所で立ち往生した。携帯は圏外。仕方なく、近道になるはずの、歩行者用の古い「トンネル」を抜けることにした。頼りは一本の「懐中電灯」だけ。ジメジメとした冷気が肌にまとわりつく。
トンネルの中ほどまで来た時、自分の足音以外に、もう一つの音を聞いた。 タッ……タッ……。 後ろからだ。誰かが私を「追いかける」ように、一定のリズムで歩いてくる。背筋が凍った。「懐中電灯」を慌てて後ろに向ける。光が届く範囲には、誰もいない。
気のせいか。そう思って再び歩き出すと、また足音がする。さっきより近い。パニックになり、出口に向かって走り出した。 ダダダダッ! 私の足音に合わせ、背後の足音も速度を上げる。ダダダダッ! もう一度、光を向ける。やはり誰もいない! なぜだ! 息が切れ、立ち止まって膝に手をついた。 すると、背後の足音も、私のすぐ真後ろでピタリと止まった。
「懐中電灯」の光が弱々しく点滅し始めた。暗闇が迫る。その時、気づいてしまった。 このトンネルは、やけに反響しない。 最初から、足音は一つしか聞こえていなかったのだ。私の足音と、背後の「何か」の足音は、一歩のズレもなく完璧に重なっていた。私が立ち止まった今、それは私の背中で、息を潜めて、次の「一歩」を待っている。


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