意味が分かると怖い話:穴の向こう

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お話

俺が住むアパートの隣室に、若い母親と5歳くらいの男の子が引っ越してきた。「こどもがまだ小さくて。もしかしたら、真夜中に騒いだりしてご迷惑をおかけするかもしれません」と、母親は深々と頭を下げた。俺は「お互い様ですよ」と当たり障りのない挨拶を返した。

だが、引っ越してきてから一週間、隣からは物音一つしない。子供がいるとは思えないほど静かで、かえって不気味なくらいだった。 ある夜、残業で終電近くに帰宅すると、自室のドアの前にその男の子が一人でちょこんと座り込んでいた。 「どうしたの? こんな時間に。ママは?」 「ママ、お買い物。これ、おにいちゃんにって」 男の子は眠そうな目をこすりながら、小さな手でお菓子の袋を差し出した。お裾分けらしい。 「ありがとう。でも、ママが帰ってくるまで、お部屋で待ってなきゃ危ないよ」 「ううん。ママがね、おにいちゃんのお部屋の『のぞきあな』を見てなさいって」

俺は一瞬、男の子が何を言っているのか理解できなかった。 「…覗き穴を?」 「うん!」男の子は無邪気に頷いた。「ママがね、『あそこが暗くなったら、おにいちゃんが帰ってきた合図だから。そしたら、これ渡してね』って」 よく分からない理屈だったが、小さな子供の言うことだ。俺は「そか。教えてくれてありがとう」とだけ言い、お菓子を受け取って部屋に入った。

その日の真夜中。俺はふと喉の渇きを覚えて目を覚ました。水を飲もうとリビングから廊下に出た、その瞬間。 玄関のドアが視界に入った。 ドアの覗き穴が、外側から「何か」で塞がれるように、ほんの一瞬、カゲった気がした。 (まさか…) 俺は息を殺してドアに近づき、恐る恐る覗き返した。そこには、非常灯に照らされた、誰もいない静かな廊下が広がっているだけだ。 (気のせいか…疲れてるんだな) 安堵した俺は、リビングに戻ろうとした。その時、昼間の男の子の言葉が、不意に脳裏に蘇った。

『あそこが暗くなったら、おにいちゃんが帰ってきた合図だから』

(…なんで?) (外から覗き穴を見ても、俺が帰ってきたかなんて分からないはずだ。普通、合図にするなら、「部屋の電気がついたら」とかじゃないのか…?) (「暗くなったら、帰ってきた合図」…?)

(…「あそこ」って、いったいどこから見てるんだ…?)


解説

男の子の『あそこが暗くなったら、おにいちゃんが帰ってきた合図だから』という言葉が、この話の恐怖の核心である。

母親は男の子に、「隣の部屋(主人公の部屋)の覗き穴を、外からずっと覗き続ける」ように指示していたのだ。 そして、主人公が帰宅した際、外の気配(子供の姿)に気づき、不審に思って「内側から覗き穴を覗き返す」だろうと予測していた。

主人公が内側から覗き穴を覗いた瞬間、外から見ている男の子にとっては「穴が(主人公の目で塞がれて)暗くなる」。 母親はそれを「帰宅の合図」だと、男の子に教えていたのである。

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