午前二時のオフィスは、サーバーの唸る音だけが響いていた。僕が「深夜」まで「残業」を続けているのは、今月中に終わらせなければならない大規模プロジェクトがあったからだ。誰もいないはずのフロアだが、たまに「カチ、カチ」と誰かがキーボードを叩く音が遠くで聞こえる。きっと、自動実行されているマクロか何かの音だろうと、自分を納得させていた。
ふと、社内チャットが通知を告げた。相手は、一ヶ月前に過労で休職したはずの佐藤さんだった。メッセージには一言、「まだ終わらないんですか?」とだけある。時刻を確認すると、メッセージの送信時間は「02:14」。まさに今だ。背筋に冷たいものが走るが、佐藤さんはパスワードを変え忘れているだけだろうと、僕は無理やり作業に戻った。
数分後、コピー機が勝手に動き出した。吐き出された紙には、僕の背後からの隠し撮り写真と、「お疲れ様です」という文字が並んでいる。慌てて振り返るが、そこには暗いフロアが広がっているだけだ。しかし、チャットに次のメッセージが届く。「僕の席の、引き出しの中を見てください」。佐藤さんの席へ向かい、震える手で引き出しを開けると、そこには僕の葬儀の案内状が入っていた。
絶句する僕の背後で、自動ドアが開く音がした。 「……ようやく終わりましたか。次の担当者が待っていますよ」 そこには、僕の時と同じ「顔色が悪い」若者を連れた上司が立っていた。足元を見ると、僕が座っていた椅子には、血の気のない「僕自身」が突っ伏したまま動かなくなっている。
カチ、カチ。 新しい担当者が僕の席に座り、キーボードを叩き始めた。僕の意識は、サーバーの唸る音の中にゆっくりと溶けていった。

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