都内のオフィス街。昼休みで賑わうカフェのテラス席で、私は奇妙な光景を目にした。向かいの席に座るスーツ姿の「男」が、ごく「当たり前のように」自分の「頭部」を両手で掴み、机の上にコトリと置いたのだ。男は首から上がない状態で、胸ポケットから取り出したハンカチで切り口を丁寧に拭っている。
あまりに堂々としたその仕草に、周囲の人々はパニックを起こすどころか、誰も見て見ぬふりをしている。男は再び頭部を持ち上げると、鏡を見ることもなくカチリと首の上に戻した。私は自分の正気を疑った。幻覚か、あるいは新手のドッキリか。確認せずにはいられず、店を出た男の後をこっそりと追った。
男は路地裏に入ると、壁に設置された古い鏡の前で立ち止まった。そしてまた、当たり前のように頭を外した。私は物陰から必死に息を殺して見守る。男は外した頭の「耳の裏」にある小さなネジを回し、中の精密な機械を調整しているようだった。彼は人間ではない。精巧に作られたアンドロイドか何かなのだ。私はスクープを確信し、スマホのカメラを向けた。
その時、不意に背後から声をかけられた。「お困りですか? 調整が必要なら手伝いますよ」 振り返ると、そこには通行人の女性が立っていた。彼女もまた、自分の頭部を脇に抱え、首のない断面から無数のコードを垂らしていた。 辺りを見渡すと、路地を行き交う人々が次々と立ち止まり、当たり前のように自分の頭を外し始めた。 「あ、失礼。あなた、まだ『固定』されているタイプなんですね。不便でしょう?」 一斉にこちらを向いた数十個の頭部が、ガチガチと歯を鳴らして笑った。この街で、自分の頭が体に付いているのは、私だけだった。


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