俺は足の骨折で、この古い病院に入院している。古い建物で、夜は気味が悪い。
特に、深夜になると決まって聞こえてくる、あの音が嫌だった。 「カラカラカラ…キィ…」 廊下を、古い車椅子が移動する音だ。看護師の見回りかと思ったが、音はいつも、俺の病室の前でピタリと止まるのだ。
その夜も、午前2時すぎ。例の音が聞こえてきた。 「カラカラカラ…キィ…」 また、俺の病室の前で止まった。 俺は息を殺した。 廊下に面した、すりガラスの小窓の向こうに、人影がぼんやりと映っている。車椅子に座った、誰かの影だ。
俺はベッドの上で動けなかった。影は、10分以上、微動だにしなかった。 (早くどこかへ行ってくれ…) そう祈った時、影が、ゆっくりと「立ち上がった」。 そして、俺の病室のドアノブを、ガチャガチャと激しく回し始めた。 「カラカラカラカラカラカラカラ!!!!!」 車椅子の車輪が、その場で狂ったように空転する音が、廊下に響き渡った。
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