狂気の館 AI小話:重力

AI小話

俺が引っ越した団地のエレベーターは、妙に反応が遅かった。特に、深夜に一人で乗ると、階数ボタンを押しても、すぐには動き出さない。

その日も、深夜に帰宅し、エレベーターに乗り込んだ。1階でボタンを押すと、ドアは閉まったが、またしても動かない。 (おいおい、勘弁してくれよ…) そう思った瞬間、ガコン、とエレベーターが大きく揺れた。

停電か? いや、明かりはついている。 だが、エレベーターは、ゆっくりと「下」に沈み始めた。 1階にいるのに、だ。 そして、天井の点検口から、何かが漏れるような音がした。 「…ヒッ…ヒッ…」 それは、必死に嗚咽(おえつ)をこらえる、女の啜り泣きのようだった。

俺はパニックになり、開(ひらく)ボタンを連打した。 エレベーターは、地下などないはずのこの団地の、さらに下へと沈み続ける。 その時、俺は気づいた。 このエレベーターは、沈んでいるのではない。 天井の上、点検口の向こう側に「乗った」何者かの重みで、ワイヤーが引きちぎれ、奈落の底へと落下しているのだ。

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