考察〜リカ再び「リターン」小説〜伏線解説

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「とりあえず最後まで読んだけどあの場面ってなんの意味が合ったんだろう」「この作品めちゃくちゃ好きだわ〜次も似たような作品を読みたいけど調べるのがめんどくさいな〜」

読書好きにはよくある悩みだと思いますが、この記事を読むと

①作中で出てくる伏線を理解する

②「リターン」の狂気名場面を振り返る

③「リターン」が面白かった人におすすめの本を知る

ことができます。

管理人は年間100冊以上小説を読んでいるため、分かりにくい箇所を簡単にまとめて解説してみました。

最後にはジャンルの似ている本を紹介するので気になる人は是非チェックしてみてください!

あらすじ

高尾で発見された手足と顔がない死体は、十年前ストーカー・リカに拉致された本間だった。警察官と救急隊員を殺し、逃亡したリカを追い続けてきたコールドケース捜査班の尚美は、同僚の孝子と捜査に加わる。捜査が難航する中、孝子の恋人、捜査一課の奥山の連絡が途絶えた。彼の自宅に向かった二人が発見したのは……。『リカ』を超える衝撃の結末。

伏線と回収

伏線1:尚美は血縁関係でもない菅原の見舞いを欠かさなかった

→引用文

「あなたは立派だと思います。今ではあなた以外、誰も見舞いに来ない」〜中略〜

「なぜですか」

酒井が聞いた。それはわたしにとってもわからないことだった。

世話になった父親同然の男を見舞いに来るというのは、それほど不思議な話ではないだろう。だが十年ともなると話が別だ。

なぜ毎月わたしは来るのか。それは自分自身でも謎だった。〜中略〜

菅原が近々転院すること酒井(医師)から聞いた尚美は、菅原を引き取ることを決断します。

→引用文

「わたしが菅原さんを引き取ります」〜中略〜

わたしはベッドの上の彼を見つめた。体の奥から笑いが広がっていくのを感じた。

彼が意識を取り戻すことはないだろう。無反応のまま生きていくだけだ。

わたしがすべて世話をする。食事を与え、排泄の面倒を見る。入浴もさせよう。

彼を完全な形で自分の物にするのだ。

一緒に暮らす。たくさん話しかけよう。何を話しても、彼はじっと聞いてくれる。それで十分だ。

愛していると伝えよう。彼は受け入れてくれる。わたしたちは愛し合える。

愛とは、そういうことを言うのだ。

わたしはベッドに近づき、彼の手に触れた。温かかった。頬ずりをした。動かない。彼は黙ったまま座っている。

伏線1に対する考察:

まさかの恋愛感情でしたね。尚美本人もなぜ十年間という長い期間、菅原の見舞いを欠かさずに行けるのかわかっていませんでした。ラストのシーンで尚美は菅原に恋愛感情を抱いていたと気付きます。リカに拉致され、リカの狂気を間近に感じたことが原因なのかは不明ですが、尚美はリカ化します。菅原を引き取って一緒に生活する妄想をするシーンでは、心神喪失状態の菅原が、リカに拉致され「生きている人形」にされた本間の姿と重なります。返事もない、尚美が見えているかも分からない、喋らない菅原を、尚美は自分の都合の良いように扱える「生きている人形」として引き取る決断をするという急展開ですが、冒頭から張り巡らされていた伏線を回収する形で物語は終わります。「目耳舌鼻や手足を切り取られた本間=生きている人形=心神喪失の菅原」ということでした。

リカが死んだことによってやっと心が解放されるはずの菅原刑事は、別の形でまたリカの呪縛から逃れることの出来ない人生を歩むことになるというキツい終わり方です。菅原刑事が何をしたって言うんだ!!

伏線2:過剰な奥山&孝子の幸せムード

→引用文

二人がつきあい出してもう五年になる。刑事というのは特殊な職業だが、お互いにその特殊性をよく知っているため、ケンカひとつしたことがないという話だった。

来年の春には結婚も決まっていた。それを機に孝子は警察を辞める予定だという。〜中略〜

車内の会話は奧山と孝子の二人だけだった。わたしや大和田の入る隙間はない。

上司の計らいもあり、部署が違う奥山と孝子が組んで行動するシーンが前半は多いです。

→引用文

奥山と孝子が何か喋っている。時々笑い声が漏れた。聞いていると、温かい何かが伝わってくるようだった。

事件は猟奇的と言っていい。手足のない死体が発見されるという、グロテスクなものだった。そしてその犯人は異常者でもある。

だが、奥山と孝子の会話はそれとは関係なく、とても幸せそうで、温かかった。事件と、それを捜査する者。これだけ温度差があるケースはそうないだろう。〜中略〜

わたしはもともと無口な方だ。必然的にパトカー内のお喋りは奥山と孝子のものになっていた。

二人はよく喋った。事件のこと、あるいはそれ以外のこと。よくもまあこれだけ話題があるものだ、というぐらい話に夢中だった。車内で二人は二人だけの空間を作っていた。そこにわたしや運転している警官の姿などはない。

伏線2に対する考察:

ラブラブ過ぎて途中から「え?奥山刑事死ぬパターンかな」と皆さんも頭によぎったのではないでしょうか。刑事として優秀だった奥山は、本田を失ったリカは新しいターゲットを求めるはずだと予測し、出会い系サイトでリカと接触することに成功します。功名心からか、接触に成功していることを誰にも話さなかった奥山は、結果的にはリカによって殺害されてしまいます。

リカを舐め過ぎや!とこれまた皆さん思ったことでしょう。

伏線3:リカの潜伏先はめちゃ近くだった

→引用文

「我々はリカと本間隆雄の行方を追った。事件はあまりにも残忍なものであり、警察官も一人殺されている。事態は猶予を許さないものだった。当時の警視庁幹部は事件の早期解決を図るため、のべ千名の警察官を動員してリカを捜した。だが、努力は無駄だった。今日に至るまでリカは発見されていない。正直なところ、生死も不明だった。警視庁幹部の中には、リカはもう死んでいるのではないかと唱える者もいた」〜中略〜

「どこに隠れていたのかは不明だが、この十年間、リカは本間と共に暮らしていた。手も足もない本間とだ。目もなく、舌も耳もない人間とどんなコミュニケーションを取っていたかはわからないが、とにかく二人は奇妙な同棲生活を送っていた。十年が経った。十年だ」

奥山がリカとの接触に成功したことから、尚美はリカの潜伏先が近いところにいるのでは?と疑問を持ち始めます。

→引用文

「リカは東京にいると思う」わたしは言った。「そうでなければ、高円寺に住んでいる男を交際対象として選ぶはずがないもの」

「東京とは限らない。近いとは思うけど、他県にいる可能性はあるわ。近くの県にいれば、電車なら新宿まで一時間ぐらいで出ることができる。それぐらい移動するのはリカにでもできる」

拉致された尚美を孝子が救うシーンでリカの潜伏先が判明します。

→引用文

「ここはどこなの」

わたしは聞いた。孝子がどこからかナイフを取り出して、縛っていた紐を切っていく。

「新大久保よ」〜中略〜

「リカは新大久保にアジトを持っていた」孝子が手錠を外した。「おそらくは十年、ここで暮らしていた。本間隆雄と一緒に」

伏線3に対する考察:

警察は文字通り全力でリカを捜しましたが、リカの動向は十年つかめないままでした。

リカ死亡説も上がるほど行方をくらましていたため、まさか防犯カメラや目撃情報が上がりやすい東京に潜伏しているとは誰も思いませんでした。灯台下暗し。もしかしたら私達の隣人も生きている人形と共に暮らしているかもしれませんね…

見出し3:管理人が選ぶ狂気名場面トップ3

トップ3:前作のラストから十年間発狂したままの菅原刑事

前作「リカ」のラストシーンで菅原が発狂し始めるシーンが描かれています。

→前作「リカ」引用文

「菅原さん」おそるおそる戸田が声をかける。「大丈夫ですか?」〜中略〜

平気です、とほとんど聞き取れない声でそう言うと、また膝の間に顔を落とした。〜中略〜

正視できなくなって、戸田は目を逸らした。六時間前にあった菅原とはまったくの別人がそこにいた。そげ落ちた頬の線、真っ赤に充血した目、死人のような顔色。

「大丈夫です。わたしは大丈夫です」

同じ言葉を繰り返す。髪をかきあげた指の間から、ひとつかみほどの髪の毛が束になって床に落ちた。〜中略〜

「遅かったんです。わたしが連絡するのが遅かったばっかりに、こんなことになってしまった」

ごっそりと束になって毛が抜け落ちた。〜中略〜

菅原の精神状態が変調していることは明らかだった。叫び声が続いている。〜中略〜

菅原が顔を上げる。刑事の一人が口を手で覆った。溢れた吐瀉物が足元に散らばっていく。

続編「リターン」の冒頭で発狂したままの菅原が出てきます。

→引用文(リターン)

菅原というのは涎を垂らしているパジャマ姿の男のことだ。小柄な体が縮んで見えた。〜中略〜

この十年、彼は一度も正気を取り戻したことがなかった。

前作のラストで、リカを銃殺したと思っていた菅原は、リカの脅威的な生命力を予測できずタッチ差で本間を拉致されます。

後にリカにとっては必要のない部位である本間の残骸(ダルマ状態の本体はリカが拉致)を発見した菅原は、本間を守れなかった罪悪感とリカへの恐怖で発狂します。

リターンの冒頭では、菅原は心神喪失状態の病人として登場します。

悲しいですね。十年間も発狂し続けなければ心を守ることができなかったというところに、菅原さんの優しさと人間としての正常さを感じました。

トップ2:事実で会話する尚美と妄想で会話するリカ

→引用文

「刑事なら知ってるでしょ。たかおさんはどこ?話して」

「本田たかおの死体は、別れた妻が引き取った。少し前、火葬されて今は小平霊園に埋葬されている」

「死体?」

「本田たかおは死んだ。あなたもよくわかっているはずよ。本田は死んだ。あなたがその死体を山に捨てた」

「たかおさんが死んだなんて嘘」リカが首を振った。〜中略〜

「本田たかおは死んだ。あなたがその遺体を捨てた。覚えていないはずがない」

リカが黙った。必死で髪の毛を掻き毟る。凄まじい音が響いた。

「あなたは本田たかおの遺体を捨てた。スーツケースに遺体を詰めて、山の中に捨てた。運んでいったのは車ね。どこでどうやって車を調達したの」

わかった、とリカが叫んだ。わたしの方を見つめる。

「警察がたかおさんを連れていったのね」〜中略〜

「そうよ、警察がたかおさんを連れていった。どこかに隠した」リカが唾を飛ばしながら喋り続けた。〜中略〜

勝手に作り上げた話を、事実であるかのように語った。目が異様に輝いていた。

「警察はそんなことしていない。だいたい、警察は本田たかおの前妻からそんなことを頼まれていない。頼まれたってやらない。できないの」〜中略〜

「嘘は聞きたくない」リカが耳を塞いだ。

「リカは本当のことが知りたい。たかおさんはどこにいるの。教えて」

「本田たかおは火葬されて墓地に入った。骨になってね。本田が死んでいることはあなたが一番よく知ってるはず」

「本当のことを言って」リカが喚いた。「言わせてみせる」

リカが飛び下がった。部屋のドアの下にあった不透明のビニール布を手で払いのける。出てきたのは錆び付いた手術道具一式だった。リカがメスを取り上げた。

→リカに拉致された尚美が本多の死について問答するシーン。会話があまりにも噛み合わなすぎて震えます。事実をいくら伝えても、尚美にとって悪い方にリカの解釈が進んでいきます。特に「警察が隆雄さんを連れて行ったのね」と「(本当のことを=リカにとって都合が良いことを)言わせてみせる」のシーンはゾッとしますね。会話が成り立たないことの恐ろしさを実感しました。何言っても詰み!って感じで恐怖でした。

ちなみに、手術道具が錆びついていたというところから、リカは本田との十年間が幸せだったのだろうなと思いました。手術道具を使う機会がなく錆びついたのかな…

トップ1:尚美、積年の恨みを込めてリカをとらえると思いきや拉致られる

→引用文

電車が走り込んできた。満員だ。ゆっくりと電車が停まる。車内から人が溢れ出してきた。

ベルが鳴る。その時、わたしは見た。〜中略〜

リカだった。〜中略〜

リカは電車を降りようとはしなかった。立っている。人がまた車内に戻る。大勢の人だ。〜中略〜

わたしの足が意志と関係なく動き出した。乗客に合わせて車両に入る。乗り込んだところでドアが閉まった。〜中略〜

電車が動き出した。人で満杯になっている。動けない。リカはどこに。どこにいる。

その時、わたしの目の前でいきなり人波が割れた。リカが立っていた。

「見いつけた」

→ここは怖くて思わず声が出ました。尚美も乗るなよ!と言いたいところですが、刑事とはそういう生き物なんでしょうね。それにしても、「見いつけた」の怖さときたら、著者のセンスに脱帽です。

リカが面白かった方におすすめの本3選

「RIKA」続編シリーズ:五十嵐貴久

リカ(2002年)

リターン(2013年6月)

リバース(2016年10月)

リハーサル(2019年2月)

リメンバー(2019年12月)

リフレイン(2021年3月)

リセット(2022年7月)

リベンジ(2023年5月)

リボーン(2024年7月)

黒い家:貴志祐介

顧客の家に呼ばれ、子供の首吊り死体の発見者になってしまった保険会社社員・若槻は、顧客の不審な態度から独自の調査を始める。それが悪夢の始まりだった。

向日葵の咲かない夏:道尾秀介

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。

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